Apr 06, 2006

映画「花よりも なほ」

ポスト @ 20:09:50 | 映画コメント



終わった瞬間、「うわー」と感嘆の声が漏れそうで、思わず、胸を押さえた。

この試写状が届いたとき、封を開ける手が震えた。
あの是枝裕和監督の最新作。しかも、時代劇。
わたしにとって、是枝監督とは、「ワンダフルライフ」の尊敬の氏である。(この作品を見るたんびに違った【映画】を描く自分がいて、見終わって、しばらく話せなくなる。生涯のベスト映画、すでに確定)

 正直、そんなくらいの情報しか入れて行かなかった。だって、あの是枝さんだもの、悪くなる訳がないと。

 ファーストシーンで、目を奪われた。
スクリーンに広がる「絵」のなんともいえない量感・質感。
舞台挨拶で監督ご自身がおっしゃっていたが、美術さんに、すごい人が入っているらしい。
日本映画界の至宝といえる、伝説のスタッフ。
いやらしくない重み感がある。

 主演・岡田准一。
失礼ながら、岡田君といえば「学校へ行こう」でしか馴染みがなかった。
こんなにすごい役者さんだったんだ。
指、視線、背中。ちいさな部分からも、宗左の濃やかな感情がリアルに伝わってくる。
何よりも、眉間にしわを寄せた端麗な表情。
こんなに、華、そして色気のある男を、見た事がない。

 ニッポンの陽は美しい。
この作品の中に写しとられた、光と影。
ぼろ長屋の中の暗さ。
間接的な明かり。
まさに、陰翳礼賛。
その時代のニッポン人を、これほどまでリアルに描いた映画があっただろうか。
きっと、落語などの古典芸能に見られるように、「長屋」の人々は、ある程度、おおらかで、コミカルで、スットンキョウだったんだろう。
人間味。いつの時代も変わらない、本質の部分。

「ダ・ビンチ コード」を、ニッポン人が読んでも、1000%理解できないように、この映画は、ニッポン人ならでは、の理解・感受が存分に活かされた作品である。
あぁ、ニッポン人で良かった。

 宮沢りえの美しさは言うに及ばず。
衣装やセット、細部まで、監督の美意識がいきわたった作品であろうが、宮沢りえの襟元のあわせ具合が、これ以上なく、美しい。
武士の後家らしく、慎ましやかながらも華やかで、人格全てを表したような、あわせだった。

 受け継いでいくこと。親から子へ。師匠から弟子へ。
バトンを渡すように、小さな明かりを継ぐキャンドルリレーのように、人と人とがつながる事の意味を、深く心に訴えかける時間であった。
 宝物のような映画。
スタンディングオベーションで、応えたい作品だ。