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読書感想文

「画」のチカラ -「福島 飯館村の四季」によせて

私は、カメラマンに嫉妬する。

しゃべり手である私は、見たもの、感じたもの、考えた事をことばを使って伝える為に、現場にいる。

ことばを紡ぐ為には、様々な作業が必要だ。
その場でキャッチした事を、頭の中で言語化し、自分のボギャブラリーの中から、(本当に貧弱な中から)最適と思われることばを選び出し、構成を考え、発する。

だが、ことばとは、限定的・断定的な伝達手段なので、はまる時はスバラシイ持っていかれ方をするが、そうでないときのハズシっぷりは、恐ろしい

極めて繊細な感覚で、伝えるべきものをキャッチしたとしても、表現が鋭敏すぎては万人には届かない。

「トランスレーター」(通訳者)の様な心持ちで、より分かりやすく物事を伝える為に、その手段を吟味しすぎて陳腐になり、結果、誰の心も動かさないという事も、しばしば起こる。

しかし、カメラマンはどうだ。
カメラを回す。もうそれだけで、全てが伝わってしまう。
勿論、積み上げた技術、磨かれたセンスの賜物であることは、重々承知の上だが。

すばらしいカメラマンと組んで現場に立つと、下手なリポートも、飾ったナレーションも、媚びたコメントも、何も要らないと思うことがある。
モニターを見ながら、黙りたくなる。ことばを失う。

「画」そのものの持つ圧倒的な力。そして、カメラマンの「目」。
同じ場所に立って、同じものを見ていたはずなのに、切り取られた世界に愕然とする。

「ああ、この人はこんな風に、あの場所を見ていたんだ」
「この人の見た世界はこうなんだ」と。

そこにカメラマンの意思(作家性)が宿りながらも、「画」の持つ力はとても広義であり、多面的だ。
受け手の心のどの部分を震わせるかは、その人、その時によって違う。まるで音楽の様に。

その懐の深さに、ただひたすら憧れる。
テレビの仕事をして20年近く。長年心の中にあったそんな思いを掘り起こす、一冊の本に出会った。

「福島 飯館村の四季」烏賀陽弘道 著。(双葉社刊)

朝日新聞の記者出身で、多くの著作において、正確かつ分かりやすい筆致で、冷静に世界を切り分けていく。
そんなペン記者のプロ中のプロが、初めて刊行したフォトブックだ。
開けば、そこにはことば(だけ)にはない説得力がある。
あえて、ことばで全てを語らず、世界を切り取る視線に思いを込める。
そこに広がる光景は、美しい。とても美しいのだ。一見。

この本をより深く理解する為に、併せて読みたい本がある。
飯館村 村長 菅野典雄氏が書かれた「美しい村に放射能がふった」(ワニブックスplus新書)だ。

今年の3.11を迎える時、メディアの喧噪から離れて、関連の著作を読んで過ごそうと思い、手にした一冊だ。
ことばでは語り尽くせない惨状。
これだけの思いを、人生を、原発は一瞬にして破壊した。

どうしていいのか分からない。自分が「伝える仕事」をしているからこそ余計に、本来なら広く伝えて知らしめたいのに、その手段を持たない身としては、歯痒くて仕方なかった。
ジャーナリストである烏賀陽氏は、見事にそれを表現した。さすが!の一言である。

美しさの裏にある、静けさ。
美しさを構成する、自然の力強さ。
美しさがもう二度と還らないのだという、切なさ。
美しさを地球上のどこにもない異質なものに変えてしまった、人間の愚かさ。

何が、これを、引き起こしたのか。
誰が、ここを、そうさせたのか。

この本をめくる度に、著者の狂おしいほどに震えた心に共振する。

今、何が起こっているのか。
この国の国土で、何が起こってしまったのかを、一人でも多くの人にまず、感じてもらいたい。

すべては、それからだ。

 

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